幾度も訪れる死線を越えて

  幼い時から”人の死”と言う事に疑問を持っていた．人が死ぬと言う事自體，避け難い何かの原因によって發生する事であり，その原因を取り除けば永遠無窮に生きることが出來る，本來の人間は今のように老いとか，病にかかるとか，死ぬとかいうような微弱な存在では無いと考えていたからであった．その後，おびただしい數の死の境地を越えながら，その境地に向って挑むように戰かって行った．

  そうして，一つ一つ隱された疑問の世界の本質と構造とをさがし出し始めた．死とは何か．生命とは何か．人は誰も完全な幸福を追扱する．然しながら，誰一人100%幸福な生活している人はいない．人としてどんなに幸福になろうとしても限界がある．

  形ある幸福を目指して走ってみても虹の如く消え去るし，勤勉な誰かが生前に或定度の幸福を達成したとしても死というものがその幸福を全てうばい去ってしまう．それなのに. 現實的に不可能であるはずの幸福の爲に，人びとは汗だくになって走り回りながら，時に相爭ってまで幸福を得ようともがく．

  所有不可能な“シンギロウ”を手に入れんばかりに，心身ともに擦り減らし大きな犧牲をはらって良いものだろうか．だが，これ程强く希求するのは，そこに何かが有るからに違いない．永遠と歡喜への思いが，祖父から父へ，父から子へ傳わる遺傳的血によって起こっている現象である．それは我われの血の中にある，永遠無窮の幸福の中で生き續けた記憶が，父子傳來に嚴然と殘っているからである．

  元來，人間は今の樣に制約された不便な存在でなく，喜びと美しさに滿ちた無限の時間をあちこち往來しながら，自由に空間を享有しながら生きて來たのである．

   そして我われはその喜び樂しさ溢れる記憶を，今尙心のおく深く，自らも知らぬまま保存しているのである．

  そして，かつての日，完全無缺な，無限に幸福であった世界へ再びかえろうと望む心の現れが，幸福の追及となっているのである．

  人は又，本來自由に飛行する身であったから，本能的に飛行を望む理由がここにある．

  飛行體として生き續けた遠い祖先の血が我われの體の中を流れているので飛行する夢も見，鮮やかな飛行の感じもそのまま感じる事も出來るし，高速道路の疾走にみるズピ－ドをも好むのである．このような本能的欲求によって，人間は自動車も飛行機も作りだした．これは，人が本來時間も空間も超越して動いた身で在ったから本能的にその樣に慾望が起ころのである．

    人は本來，一元體の統一された心を持っていた

  人は複雜な事をいやがる．もつれた絲，亂雜な部屋，つくえの上を見ると頭が痛い．人びとがあれこれと主義主張し，分派分裂するのを見ると誰しもが心を痛める．それは本來，人が各個體として分れでいたのではなく，一元體制の心を持っていたからである．故に人は複雜な事や分裂している狀態をいやがり，單純明瞭な，統一された狀態を好むのである．

  これは，理論的推理ではなく，まだ，幻想や，夢見ながらの話でもなく，實際に人間本然の狀態に到達してその姿を經驗し，人が死なない秘訣を得て，新しい學說として論じておられる方の話されたところによるものである．人はかつで心が無限であったし，一瞬間に全てを見通すことが出來たから，隱し事も未知と言うことも無かった．全てが一つであって，あの事，この事という二つという事が無かった．

  ところが，心が分裂意識によって占領された瞬間一つの心は二つに分けられでしまった．その分裂された心を支配する主體靈が自分を意識する 「わたし」 なのである．  世の人達には 「あなた」 と 「わたし」 がある．ここに於いて心は二つある．

  今日の人びとの考えは， 「わたし」 という存在意識にとりつかれている爲，間違った考えを持っているのである．わたしを意識するが故に’好き’ ‘きらい’の區別が出來，好ききらいがある故に友達，敵，味方が生れる．これを性格上から見れば，聖書に言うところの’善惡を知る木の實‘でなくて何であろう.*

藤田多惠子 勝師 監修
飜譯: 尹金玉 記者